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【専門的コラム】なぜ今、シフトが組めなくなっているのか ―必要人員の算出方法と、P/A休日希望の“構造的ギャップ”を読み解く―

【専門的コラム】なぜ今、シフトが組めなくなっているのか ―必要人員の算出方法と、P/A休日希望の“構造的ギャップ”を読み解く―

■序章:人手不足では説明できない「シフト崩壊」という現象

近年、飲食店の現場では「シフトが組めない」「最低限の必要人員さえ確保できない」という深刻な声が増えています。多くの経営者は「人手不足だから仕方ない」と考えがちですが、実際には 単純な人手不足を超えた構造的な問題 が発生しています。

本稿では、飲食店における
・必要人員数(適正人員数)の算出
・P/A(パート・アルバイト)の休日希望
・労働法改正
・稼働率の低下
これらがどのように相互作用し、シフト運営を困難にしているのかを体系的に解説します。

※関連テーマを深掘りした記事はこちら:
▶ 人が辞めない店の作り方|離職防止の基礎戦略

▼第1章:シフトが組めない店舗が急増している理由
■1-1 現場で起きている「人員は足りているはずなのに、足りない」という矛盾

多くの経営者や店舗責任者が抱えている感覚は次のようなものです。

採用人数はそこまで減っていない

契約上の総労働時間は足りている

だが、必要な曜日・時間帯に人がいない

シフトがスカスカになる

社員の労働時間だけが増える

この「理論上は足りているのに、実際は不足する」という矛盾こそ、今回のテーマの中心です。

■1-2 飲食店の人員構造を揺るがした“働き方改革”のインパクト

近年の労働関連法改正は、飲食店の労働力構造に直接的な影響を与えています。

●主な改正点

残業時間の上限規制(罰則付き)

有給休暇取得の義務化(年間5日)

勤務間インターバル制度の普及

長時間労働是正に向けた企業責任の強化

これらにより、店舗は「1名あたりの労働時間調整」を以前のようには行えなくなりました。

●従来の“調整力”が消滅した

以前は、

忙しい日は社員が10〜12時間労働

P/Aにも「今日少し延長して」と依頼

日付が変わるまでのヘルプが常態化

これが現場を支えていました。

しかし現在、
「長時間労働でカバーする」という調整が事実上不可能
になっています。

これは飲食店の構造的ダメージと言ってよいほど大きな変化です。

■1-3 働く側の価値観変化:生活優先への転換

法律だけでなく、働く側の意識変化も加速しています。

学生:学業優先・サークル優先

主婦層:家庭都合・扶養範囲内の厳格化

フリーター:Wワーク前提

ミドル層:プライベート優先・負担軽減志向

その結果、希望休が増え、
「企業が必要とする時間帯」と
「働く側が入りたい時間帯」が
大きく乖離しています。

▼第2章:必要人員数の算出が“実態に合っていない”問題
■2-1 一般的な必要人員数の算出方法

飲食店の必要人員は通常、次のプロセスで算出されます。

①作業工程の標準時間(ST:Standard Time)を設定
②時間帯別の必要作業量を算出
③売上予測から必要人時を算出
④必要人数を割り出す

これは基本理論としては正しい方法です。

■2-2 しかし、多くの店舗が見落としている重大な要素

多くの店舗で、必要人員数に以下の変数が 含まれていません。

P/Aの希望休

学生の時間制約(授業・試験)

有給取得義務

週40時間の法定上限

1日4〜5時間の短時間シフト者の増加

土日祝に稼働できない層の増加

つまり、
「計算上は足りているが、現実運用では足りない」
という構造が最初から組み込まれたままになっているのです。

■2-3 最も深刻な盲点:休日希望による“稼働率の低下”

経営者や店舗責任者は「もっと人を採りたい」と考えますが問題は採用数ではありません。

飲食店の根本的な問題は、
採用人数 × 契約時間 = 十分
しかし、休日希望と制約で実働が不足する
という稼働率の問題です。

これは単純な労働力不足ではなく、
“コントロール不能な勤務希望”による構造的欠員
と言えます。

▼第3章:P/A休日希望と必要人員のギャップの本質
■3-1 「休日希望=悪」ではない

まず前提として、
P/Aの希望休は当然の権利であり、法的にも尊重されるべきものです。

しかし問題は、
全員の希望休をすべて無制限に受け入れる運用
にあります。

この運用が続くと、店舗は以下のような状況に陥ります。

特定の曜日に人員が集中

土日祝に人がいない

ランチ帯の稼働が崩壊

社員だけが長時間労働になる

離職リスクがさらに上昇する

■3-2 希望休の“偏り”が起こすシフト破綻

現代の飲食店では、希望休は以前よりも偏りやすくなっています。

土日は休みたい

日曜日は宗教・家族行事

平日夜は授業

テスト期間中はゼロ

家族の用事が優先

これらが重なると、
「必要人員の山」と「稼働できる人の谷」が完全に逆」
という現象が起きます。

■3-3 経営者や店舗責任者が理解すべきこと:
必要なのは「採用」ではなく「稼働率の設計」

多くの店舗は“人数を増やす”という発想に偏りますが、解決策の核心はそこではありません。

核心は、
休日希望・時間制約を「管理可能な範囲」に設計し直すこと
です。

これを行わない限り、何名採用してもシフト不足は解消しません。

▼第4章:次回予告(第2回以降の内容)

本シリーズでは、以下のテーマに分けて徹底解説していきます。

●第2回:必要人員数を正確に算出する方法

(希望休・有給・短時間シフトを含めた最新モデル)

●第3回:P/A休日希望の“コントロール”

(希望休の仕組み化/公平性の担保/店舗の権利)

●第4回:稼働率を最大化するシフト設計

(配置戦略/ピーク人員の作り方)

●第5回:働き方改革対応の労務設計

(法対応 × 安定運営のハイブリッド戦略)

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