飲食店経営において、「人が辞めるかどうか」こそ最大の経営リスクです。どんなに美味しい料理を提供できても、現場で働く従業員が定着しなければ、サービス品質は安定せず、売上の維持も難しくなります。
実際、飲食業界は他業種に比べて離職率が非常に高いことで知られています。厚生労働省「令和4年雇用動向調査」によると、**宿泊業・飲食サービス業の離職率は26.8%**で、全産業平均(15.0%)を大きく上回っています。
👉 参考:厚生労働省 雇用動向調査(PDF)
さらに新卒者の3年以内離職率は、大学卒で56.6%、高校卒で**65.1%**に達するという報告もあります。
👉 参考:マネーフォワード Bizpedia「飲食店の離職率」
これらの数字は、「人が辞めるのは当たり前」という空気を生み、採用難・教育コスト増・現場の疲弊を招いています。
しかし、**仕組みを整え、現場を改善すれば「辞めない職場」に変えることは可能」です。
この記事では、飲食店の離職を防ぐための具体的なアプローチを、実際のコンサルティング現場での事例も交えながら解説します。
1. なぜ飲食業界で人が辞めやすいのか?
飲食業の離職理由は、大きく分けて次の2つの要素が絡み合っています。
構造的要因:業界全体が抱える「仕事のきつさ」「シフト制」「待遇格差」など
システム的要因:個別店舗の「採用方法」「教育体制」「マネジメント」など
構造的要因は業界の宿命とも言えますが、それを吸収し緩和できる「システム」を整えることが、辞職を防ぐための本質的アプローチとなります。
2. 辞職者を生む職場の特徴
2-1. 採用段階でのミスマッチ
多くの飲食店では、採用面接が**「勤務日・時間の確認」程度**に終始し、仕事内容・教育体制・昇給の可能性・店舗の雰囲気まで十分に伝えていません。
結果として、入社後に「思っていたのと違う」と感じ、早期離職につながります。
2-2. 初期教育・訓練の不十分さ
飲食業界はOJT中心になりがちですが、体系化されていない教育は、以下の問題を生みます。
教える人によって内容がバラバラ
目的や意図が伝わらず、ただ作業を覚えるだけ
忙しい現場で放置され「自分は必要とされていない」と感じる
2-3. ケア不足・承認不足
日常的な声掛けやフィードバックが欠けると、従業員は孤立感を強めます。
「頑張っても見てもらえていない」と思った瞬間に、辞職への気持ちが一気に加速します。
3. 辞職を防ぐためのアプローチ
3-1. ミスマッチを防ぐ面接プロセス
採用段階から「選ぶ面接」ではなく「選ばれる面接」を意識しましょう。
提示すべき情報は次の通りです:
勤務条件・休日・給与体系
仕事内容・難易度・教育方法・習熟の目安期間
キャリアパス・昇給の基準
店舗理念・社風・組織体制
求職者に判断材料を渡し、自分で選んでもらうことが定着率向上の第一歩です。
👉 関連記事:特集ブログ『人が辞めない面接~訓練について(仮題)』
3-2. 初期教育を仕組み化する
教育コストを抑えつつ、安心して働けるようにするためには以下の流れが有効です。
事前説明(Off-JT):落ち着いた場で業務内容を説明
見本提示:先輩が実演して「できる姿」を見せる
実践演習:新人に実際にやらせてみる
評価フィードバック:良い点と改善点をその場で伝える
振り返り:その日の学びを共有し、次回に活かす
これにより、新人は「放置されている」不安を解消できます。
3-3. トレーナーの選定と育成
教育を担当するスタッフは、業務スキルだけでなく「説明力・共感力」が不可欠です。
実際に私がコンサルティングで見た失敗例では、仕事は早いが教え方が雑な先輩に新人を任せたため、早々に辞めてしまうケースがありました。
一方、成功例では「ストアコンパリゾン(競合店舗との比較調査)」を行い、自店が劣っている点を外部視点から洗い出し、その改善を新人教育に組み込んだことで、大幅に定着率が向上しました。
3-4. 承認とケアの文化を作る
従業員は「自分が認められている」と感じた瞬間に、職場への帰属意識が高まります。
日常の小さな声掛け
「ありがとう」を言葉で伝える
進捗や成長を具体的に褒める
悩み相談の場を設ける
こうした小さな積み重ねが、離職防止の最も効果的な投資です。
まとめ
飲食店で辞職を防ぐには、「構造的に辞めやすい業界」だから仕方ないと諦めないことが第一歩です。
採用段階でミスマッチを減らす
教育を仕組み化して不安を解消する
トレーナーの質を高める
日常ケアと承認文化を根付かせる
これらの取り組みを通じて、**「人が辞めない職場」**を実現することは十分可能です。
👉 関連記事:
第1章:最低賃金引き上げがもたらす飲食業界の現実と未来
第2章:ローコストオペレーションの確立方法
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