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第5章:原価改善とつなげた損益改善の総合戦略とは

第5章:原価改善とつなげた損益改善の総合戦略とは

1. 導入:なぜ人件費だけでは限界なのか

飲食店経営者の多くが直面している最大の課題のひとつが「人件費の上昇」です。最低賃金の引き上げは年々続いており、単純に人件費を削減するだけでは対応が難しい状況になっています。さらに採用難・定着難が重なり、従業員の確保自体が経営リスクになっています。

その一方で、商品原価も円安や物流コストの高騰により上昇傾向が続いており、店舗オペレーションを支える損益のバランスは年々厳しさを増しています。

結論から言えば、人件費の改善は「原価対策」や「その他経費対策」と並行して行う必要があるのです。飲食店の損益構造を数値で捉え、全体の最適化を図ることで初めて「人件費対策」が成果につながります。

2. 人件費上昇の構造的背景
2-1. 最低賃金引き上げの実態

厚生労働省のデータによると、最低賃金は過去10年間で右肩上がりに上昇しています。2024年度の地域別最低賃金の全国加重平均は 1,004円(前年比+43円) と、過去最大の引き上げ幅となりました(厚生労働省 最低賃金データ
)。

この上昇基調は今後も継続することが予想され、「人件費は下がらない」という前提で経営を設計することが不可欠です。

2-2. 労働人口の減少と採用難

日本の生産年齢人口(15〜64歳)は減少を続けており、特に若年層アルバイトの採用は難化しています。リクルートワークス研究所の調査によれば、飲食業の有効求人倍率は常に2倍前後と高止まりし、人材獲得競争は今後さらに激しくなると考えられます。

つまり「人件費を削る」のではなく、限られた人材を効率的に活かすオペレーション構築が避けて通れないテーマなのです。

3. 人件費単独対策の限界
3-1. FLコストの基本構造

飲食店の損益を表す代表的な指標に「FLコスト」があります。

F(Food)=原価

L(Labor)=人件費

この合計比率を FL比率 と呼び、一般的に 55%以下 が望ましいとされます。

例えば、

原価率 30%

人件費率 25%
→ FL比率 55%

となりますが、最低賃金上昇により 人件費率が30%を超える店舗も増加しています。

3-2. トレードオフ構造

人件費を抑えるために人員を削れば、サービスレベルや店舗オペレーションの質が低下し、顧客満足度に直結します。
逆に原価を削れば、商品価値やリピート率を落とすリスクがあります。

「人件費だけを見る対策」は短期的には数字を改善できても、中長期的には売上減少につながる可能性が高いのです。

4. 損益計算式から見る「原資」の考え方

飲食店の利益構造をシンプルに表すと以下の式になります。

売上 − 原価 − 人件費 − その他経費 = 利益

この式を見れば明らかなように、人件費改善は原価やその他経費との相互関係の中で成立するものです。

原価率を下げれば粗利益が増え、労働分配率(人件費÷粗利益)が下がる

人件費効率を上げれば、原価に投資して商品価値を上げても利益が維持できる

光熱費や家賃などの固定費を抑えれば、人件費率が多少上昇しても吸収できる

つまり「人件費だけを切る」のではなく、全体最適の中で人件費の比率をコントロールすることが戦略的対応なのです。

5. 相互関係を把握するための指標
5-1. 人時売上高

売上 ÷ 総労働時間で算出される指標です。

例:売上500万円 ÷ 総労働時間2,500時間 = 2,000円/人時

人件費効率を測るうえで最重要のKPIであり、シフト管理・教育効果・生産性改善の成果がダイレクトに現れる数値です。

5-2. 労働分配率

人件費 ÷ 粗利益 × 100 で算出します。

粗利益1,000万円、人件費350万円 → 労働分配率35%

粗利益が増えれば自然に下がり、人件費が上がれば上昇します。
→ 人件費改善は原価改善と表裏一体であることを示す指標です。

5-3. FL比率

原価率+人件費率で算出します。
一般的な目安は 55%以下。
業態によって異なりますが、この数値を超えると利益確保が難しくなります。

6. 数値モデルによる改善シミュレーション
ケース①:人件費率だけを改善する場合

売上500万円

原価率35% → 175万円

人件費率30% → 150万円

その他経費25% → 125万円

利益 → 50万円(利益率10%)

→ 人件費率を1%下げても、利益は +5万円 にしかなりません。

ケース②:人件費率+原価率を同時に改善する場合

原価率34%(−1%) → 170万円

人件費率29%(−1%) → 145万円

その他経費25% → 125万円

利益 → 60万円(利益率12%)

→ 改善効果は +10万円 と、相乗効果が大きくなります。

「人件費×原価×経費」の三位一体での改善が最も効果的であることが分かります。

7. 実践に向けたチェックリスト

毎月、人件費率・原価率・FL比率を確認しているか

人時売上高を算出し、改善の指標として活用しているか

原価改善の仕組み(仕入れルート、ロス管理、メニュー設計)は機能しているか

人件費改善の仕組み(採用、教育、定着、キャリア設計)は機能しているか

店舗ごとの損益をKPIで「見える化」できているか

8. まとめ:人件費改善は「総合戦略」である

人件費上昇は避けられない構造的課題

単独のコストカットでは限界がある

原価対策・経費対策との相互関係で最適化を図ることが必要

数値指標(人時売上高・労働分配率・FL比率)を基準に経営判断を行う

飲食店経営において 人件費改善とは「人材を削ること」ではなく「経営資源を活かすこと」 です。
中長期的な視点で損益構造を設計し、総合戦略を実行することが持続的成長のカギとなります。

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