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はじめに:最低賃金引き上げの波が押し寄せる外食産業
2025年に入り、日本の外食産業は「最低賃金の引き上げ」という避けられない大きな波に直面しています。最低賃金はこの10年間で全国平均で200円以上上昇し、飲食業界における人件費構造を大きく変えました。
一見すれば「労働者の待遇改善」というプラスの側面が強調されがちですが、現場レベルでは 経営者・店長・従業員すべてに深刻な影響 を与えています。
私自身、30年間にわたりファミリーレストランやうどんチェーン、惣菜テナントチェーンで店舗・エリア運営を担当してきました。その経験から言えるのは、「最低賃金の上昇」は単に人件費を押し上げるだけではなく、企業の収益構造の歪みやコンプライアンス意識の差 を顕在化させる、いわば「リトマス試験紙」の役割を果たしているということです。
最低賃金の推移と飲食店へのインパクト
日本の最低賃金は2013年の全国平均749円から、2023年には1,004円へと大きく上昇しました(厚生労働省データ)。この間、飲食店の経営環境は大きく変わりました。
売上が横ばいなのに人件費だけが増える
食材価格や光熱費も同時に上昇
価格転嫁が難しく、利益が急速に圧迫
この「三重苦」により、利益率の低い店舗ほど存続が難しくなり、閉店や倒産のニュースが後を絶ちません。実際に東京商工リサーチの調べでは、飲食業の倒産件数は最低賃金引き上げのたびに増加傾向を示しており、経営者の危機感はかつてないほど高まっています。
私の経験事例:サービス残業の増加と店長の苦悩
現場で特に深刻なのは、サービス残業やただ働き がいまだに残っていることです。
表面的には「最低賃金を守っている」としても、実態は違います。
私が経験したケースでは、最低賃金の引き上げに伴い パート・アルバイトの労働時間を減らし、正社員の負担を増やす という対応が取られていました。ところが、多くの企業では社員の残業代を正しく支払わない慣習が根強く残っています。そのため結果的に「賃金コストを抑える」どころか、社員の疲弊と離職を招く悪循環 が発生していたのです。
特に雇われ店長の立場では、仕入れや商品価格を変更する権限はなく、マネジメントの範囲は「売上確保」と「人件費コントロール」に限定されていました。つまり「売上を増やすための施策」を打てないまま、人件費削減という最も短絡的な方法に頼らざるを得ない状況 に追い込まれていたのです。
この問題は、単に一部の企業のコンプライアンス不足にとどまりません。最低賃金の上昇が加速すればするほど、こうした歪んだ現場運営が浮き彫りになる という深刻な構造問題を示しています。
最低賃金上昇が生む「企業間格差」
最低賃金の上昇は「強い企業」と「弱い企業」をより鮮明に分けます。
強い企業:売上拡大やオペレーション効率化で人件費上昇を吸収できる
弱い企業:売上の改善策を打てず、人件費削減や不適切な労務管理に走る
この差はやがて採用力や定着率の差となり、優秀な人材が強い企業に集中し、弱い企業は離職率が高まり続ける という結果を招きます。
飲食業界は「人」がすべての源泉です。採用難・離職増加が続けば、店舗の営業すら維持できません。最低賃金の上昇は、まさに 「企業の本質的な経営力を試す試金石」 となっているのです。
収益構造改善の優先順位
この課題に対処するための改善手順は、私の経験上、以下の順序が最も効果的です。
売上高の拡大
売上が伸びなければ人件費をカバーできない。
まずは新規客獲得とリピーター育成の戦略が必須。
(詳細は → 飲食店経営力アップシリーズ 【第2章】売上を安定させる基本戦略|
を参照)
固定費の削減
家賃・広告宣伝費・本部経費など。
一度削減できれば長期的に効果が出やすい。
変動費の改善
仕入れの見直し、ローコストオペレーションの徹底。
水道光熱費の管理など小さな積み重ねも重要。
(詳細は → 第2章:ローコストオペレーションの確立方法
を参照)
こうした段階的な取り組みを行うことで、最低賃金引き上げに耐えられる体制を作り出すことができます。
まとめ:最低賃金引き上げは「ピンチ」か「チャンス」か
最低賃金の上昇は飲食店経営にとって大きなプレッシャーであり、確かに「ピンチ」と感じる経営者も多いでしょう。ですが同時に、それは 「自社の経営基盤を見直す絶好のチャンス」 でもあります。
コンプライアンスを守る企業は、採用力を強化できる
業務効率化やオペレーション改革を進めれば、利益率を改善できる
顧客満足度を高めれば、売上増加で人件費上昇を吸収できる
本章では「最低賃金引き上げがもたらす課題と現実」を整理しました。次章では、具体的な解決策である 第2章:ローコストオペレーションの確立方法
に踏み込んで解説します。
また、弊社のコンサルティングサービスでは、こうした飲食店の課題に対して 実行可能な改善策を一緒に考え、導入を支援 しています。ぜひお気軽に サービス紹介
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